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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2108号 判決 1958年10月14日

事実

原告東海興業株式会社は、被告葵興業株式会社が昭和三十一年七月より同年八月に亘り振り出した約束手形四通を所持するものであるが、これを法定の呈示期間内に支払場所に呈示したが支払を拒絶されたので、被告に対し右手形金合計三百五万円及びこれらに対する支払済までの遅延利息の支払を求めると主張した。

被告は、原告主張の約束手形四通のうち、二通の手形を被告が振り出したことは否認し、その余は認める。右二通の手形は、訴外吉田源次郎が被告会社を代表する権限がないにもかかわらず、被告会社代表者の意思に基かないで代表者印を盗用し、これを作成して流通に置いたものであるから、被告会社は右手形について振出責任を負うものではない。

次に、右二通の手形以外のものについては、被告会社が前記吉田源次郎の依頼によつて振り出したのであるが、右吉田は被告に対し、この手形は原告から割引を受けてその割引金は吉田が使用させて貰うが、その返済については自ら責任を負い、被告会社に対し責任を負わせない旨約定したものである。而して原告はこの間の事情を知りながらこの手形を取得したのであるから、この手形につき悪意の取得者というべく、原告は被告の振出責任を問うことはできないものであると抗争した。

理由

被告が振出の効力を争う二通の手形について審案するのに、証拠によれば、この二通の手形は、訴外吉田源二郎が被告会社を代表または代理する権限がないのに、被告会社代表者の意思に基かずして自らこれを作成し、原告に交付したものであること、及び右吉田源次郎は、この二通の手形振出当時被告会社の取締役であつたことを認めることができる。そして証人の証言によれば、この二通の手形振出当時吉田源次郎は原告会社に対し、自己が被告会社の専務取締役である旨自称していたこと、特に昭和三十年中は被告会社代表者の了解のもとに被告会社の専務取締役の肩書を附した名刺を使用していたことを認めることができるから、格別の事情がない限り被告会社は吉田源次郎に対し専務取締役の名称を使用することを許容していたものと認めるのが相当である。商法第二百六十二条の規定は表見代表取締役の行為に対する会社の責任について規定したものであるが、この場合行為者が表見代表取締役自身である限り、その名義人を表見代表取締役自身としたのと真の代表者としたのとで特に差異を附すべき理由がないから、本件の場合原告会社において善意である限り、被告会社は、右二通の手形振出につきその責に任じなければならないのである。被告の主張自体によると、この二通の手形の支払場所は、被告が振出を認めている他の手形の支払場所と異なることを認めることができ、また、この二通の手形には被告が振出を認めている手形のように手形番号の記載及び振出人被告会社の記載部分に角型のいわゆる社印の押捺がないこと、さらにこの二通の手形の振出名義人の記名捺印に用いられた印は専務取締役の印であつて、やはり被告が振出を認めている手形の場合と異なることを認めることができるけれども、この二通の手形は書換手形であることを認めることができるから、右のような手形面上の特別の事実が認められても、なお原告会社の本件手形取得は善意であつたというべきであつて、被告会社の責任を阻却することはできない。

次に被告が振出を認めている手形についての被告の抗弁について判断するのに、被告会社代表者の本人訊問の結果によれば、吉田源次郎は、被告代表者に対し「この手形を出してくれれば吉田においてその手形割引金を使わせて貰い、期日までには手形金額を支払つて取戻してくる」と言明していたことを認めることができるけれども、そのことを知りながら原告が右手形を取得したことはこれを認めるに足る証拠がないばりでなく、融通のために振り出された手形は、いやしくも第三者に取得された以上、その第三者に対しては責任を免れ得ないものであるから、被告のこの抗弁は理由がなく採用することができない。

してみると、本件四通の手形についての原告の請求は全部正当であるとしてこれを認容した。

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